“誤審”も完敗も、29歳の闘志をくじくことはできない。「落ち込んでいる暇はありません」。レスリングの世界選手権女子72キロ級で、メダルと北京五輪の出場枠を逃した浜口京子(ジャパンビバレッジ)は、すでに歩み始めている。
2回戦では“誤審”に阻まれた。国際レスリング連盟の審判委員長が試合後に認めた明白なミスジャッジ。会心の手応えを得た技が看過され、抗議も実らずに散った。
相手のズラテバ(ブルガリア)には、前回決勝で粗暴極まる頭突きを食らい、鼻骨を折られていた。手術後、1週間は寝たきり。一方の鼻の穴にガーゼを詰め、プラスチックの器具で患部を固めた。食事も会話もままならない。笑えない。包帯を解き、鏡を見る瞬間に味わった苦み。「痛さ、つらさは消えない」「明日は野獣になって戦う」。再戦を控えた前日、柔和な顔をいつになくゆがめた。
“誤審”がなくても、勝てた保証はない。相手の速さは上。鮮やかな投げも食った。日本レスリング協会の福田富昭会長は「怪しい試合をしちゃだめ。完全に勝つ力をつけないと」。敗者復活2回戦は、満を持して掛けた技が切り返され、6年ぶりのフォール負け。長く世界の最前線で体を張り続けた浜口が、3位決定戦さえ逃すのは11年ぶりだった。
敗戦から約30分。ウオーミングアップ場でしおれる浜口に、金浜良コーチは「いま投げられるか、五輪で投げられるか。どっちだ?」。敗戦の苦みは残っていたが、浜口は腰を上げた。仕掛けの角度を微妙に変え、試行錯誤を何度も重ね…。
「私はレスリング大学に通っている。今が青春なんです」。競技一筋の20代を、至福の笑顔で振り返ったことがある。けなげで純粋。敗戦後の一こまにも、浜口の今が凝縮されていた。
北京への道は閉ざされていない。来年3月のアジア選手権を含め、チャンスは3度。「出場権を取りに行きます」。斜陽の季節にはまだ早い。
【産経新聞】